少しだけ凌統が俺に心を開いてくれるようになった、と思う。
今までは、顔をあわせればいがみ合い。
そうでなければ避けるように俺の前を通る、といったようなものだった。
最近はケンカはするものの、じゃれあいのような軽いもので、殺意なんて感じない。
あいつの方から碁に誘ってくることもある。

そうなったのは、合肥の戦いの後ぐらいからだろうか…。
俺にとっては嬉しいことこの上ない。


初めはどう扱っていいかわかんなくて、すごく困った。
俺のこと仇としか見てくれないし、俺は頭よくないから、どう付き合っていけばいいか考えられなかった。

考えられなかったけど、どうにかしたいとは思ってた。
父親のことで、普段はクールなあいつが激情したり、泣いたり…
俺にはない一面を見せられて、徐々にあいつに惹かれていったから。
こうなるのはおかしいと思ってる。
だけど、止められなかったんだ。

「…凌統」

もっと近くで…もっともっと近くであいつの存在を感じたかった。
『父親の仇』というレッテルが、俺とあいつの距離を掛け離れたものにしていた。
それがすごく歯がゆくて…悔しかった。

それが、最近の状態からすると、徐々にその距離が埋まってきている気がする。
気がする、だけかもしれないんだけど…
だけど、碁を一緒にやってるときはお互い本気だし、
別に罠ってわけでもなさそうだった。
碁をやってる隙に毒か剣で…
って感じるところが全くないのだ。

でも、もっと困ったことにこの気持ちをなかなか押し殺せないことだ。
あいつを目の前にすると、抱きしめたい気持ちでいっぱいになって、理性と格闘するのが一苦労だ。
なんつーか…可愛いっていうの?あいつの仕草。
俺に対してだとちっちゃいことでも、つっかかってくるっていうか〜…
ケンカ売ってくるっていうか〜…
そんな感じなんだけど、それが小動物みたいで可愛いんだよねぇ。
で、たまに弱い面を見せ付けられた日にゃあ、理性が吹っ飛びそうになるぜ。
だけど、やつに言ったらきっと困るに決まってる。
仇の俺が、やつを好きだなんて…。

「うわぁ〜…どうしたらいいんだ〜…」

頭を抱えていると、殺気ではない人の気配を後ろから感じた。

「あんたでも頭抱えることがあるのかい?それか何か?どっかでぶつけたのか?」
「りょ〜ぉとぉぉぉ〜…」

考えている矢先に本人かい!?
うずくまっていた俺の視線に合わせて、しゃがんで覗き込んでくる。
う…可愛いじゃねぇか、ちくしょー!

「大丈夫かい?」
ばか!ばか!
それ以上顔近づけんじゃねぇ!!
「ば…もぉ離れろ!」
立ち上がった瞬間に俺の頭と凌統の顎がぶつかった。

「ってぇ…バ甘寧!何しやがる!」
「お前もお前だ!人がせっかく我慢してんのに…」
「…?」
うろたえる俺に何が何だかさっぱり分からないといった表情をする凌統。

もぉ…我慢できん…
「凌統!いいか、よく聞け!」
「な…なんだよ…いきり立って…」

「俺、お前が好きだ」



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「俺、お前が好きだ」

甘寧にいきなり言われた。
「好き」って、何?
どーいうこと?

「お前の返事は期待しない。でも、俺はお前のこと好きだ」
期待しないって、お前は俺の気持ち知ってるのかっつの!

そりゃ…ちょっと前までは甘寧のことだ大嫌いだったよ。
父上の仇だし、アホで何にも考えてなさそうだし、単細胞だし、裸族だし…
嫌いで嫌いで、いつ殺してやろうか必死で考えてたよ。

でも、最近じゃその気持ちを割り切ろうと思い出した。
アホで、単細胞で裸族はどうにもならないけど、
父上のことは戦場でのことだし、甘寧の

『敵は討つ、仲間は守る』

っていう真情を知ったから、それは俺も受け入れなきゃいけないことだっていうのはわかった。
だから、今はこいつのこと、そんなに嫌いじゃない。

逆に、最近はこいつとケンカしたり、碁をやったりして、
俺にない一面を見れたりして、そこが羨ましいなんて思ったりして…
ちょっとだけ甘寧に惹かれ始めていたんだ。
だから、今の甘寧の言葉は正直いい意味で驚いた。
甘寧も…考えてたなんて…。

でも、やっぱり割り切ろうと思っても、どこかで父上の顔が思い出されて、
こいつのこと、完全に許せることはない。
一緒に碁をやっていても、無意識に隙を狙っている自分がいる。
夜も、ふらっと外に出て、気づくと甘寧の寝屋の前にいることがある。
甘寧は知らないだろうけど、俺はまだまだ甘寧のこと、殺そうと無意識のうちに考えて動いてしまってるんだ。

今度は、そんな自分が許せなくなった。
いつまでも許せない、割り切れない自分が悔しい。
反面、こいつに惹かれている自分がいて…すごく歯がゆい。
いっそのこと思い切り抱きついてしまえば、どれだけ楽だろう。

だけど、ここで甘寧の気を惹いても、どこかで命を狙うチャンスをうかがっているんじゃないかって思ってしまう。
俺は、自分自身までも信じられなくなってしまっている。
今度は甘寧まで苦しめてしまうハメになってしまう。

もぉ俺は、甘寧を殺そうとか、苦しめようとか、考えていないはずなのに…

(俺も、あんたのこと好きだ…)

言おうと思ってやめた。

きっと今のままではこいつを苦しめる。
俺はそんなことしたくない。
好きだからこそ、こいつの気持ちを受け入れて、流されるわけにはいかないんだ。

「甘寧…俺は…」
言おうというすると、甘寧はニッと大きな笑顔を作った。
「そんな顔するなよ!俺はお前を困らせたいわけじゃないからな!返事は期待しないって言っただろ!?」
「甘寧…ごめん…」
今はお前の優しさに甘えさせてもらうよ…
「わかってたから!気にすんなって!あ、でも、碁は付き合うぜ!いつでも言えよ、な?」
「…あぁ」
じゃぁなって、やつは背を向けて手を振った。
その背中はいつもより丸く、小さく感じられた。

こいつは、俺の言葉をどう受け止めたのか…
『ごめん』の一言。
俺のホントに伝えたい気持ちが一つも入っていない言葉。
きっと、やつにとって、予測してたんだろうケド、欲しくなかった返事に取られたに違いない。

ごめん…ごめんごめんごめん…

きっと、言うから…言えるようになるから…
俺に少し時間をくれ。
今度は俺の方から言うから…

「あんたのこと、好きなんだ」って。



俺だけが…あんただけが…悪いんじゃない。

こんな時代に生まれた、俺たちが…不幸だったんだ。



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これも2005年冬コミで出したものです。 ちょっと改変しましたが…(あんま変えてないけど) でもホントにまだまだって感じだね…。 全然キャラ立ってないっつの!! 甘寧…なのか? って感じですな。(恥)